九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野 九州大学病院 顎口腔外科

入局希望者・歯学生の方へFor students and residents

先輩の声

インタビュー
Interview

  • 坂本 泰基
  • 緒方 謙一
  • 鎮守 晃
  • 石黒 乃理子
  • 松村 万由
  • 宗村 龍祐

坂本 泰基

  • 入局を決めた理由

    歯学部1年生の時の病院見学実習において口腔外科という分野に興味を持ち、口腔外科の講義を受けてもっとこの分野について勉強したいと思いました。特に口腔がんの研究および臨床に携わりたいと考え、入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    大学院では、研究を行うことにより「考える力」を養うことができました。その力は臨床にも役に立っていると感じています。医員になってからは、一般歯科では対応困難な口腔外科疾患に対する治療の組み立て方を学び、実際に執刀することでさらに知識を深めるとともに責任感が芽生え、それが充実感につながります。口腔外科を選んで良かったと感じています。また、高い目標に向かって頑張れる同僚がたくさんいることも魅力です。

  • 後輩へのアドバイス

    口腔外科は歯科の分野の中でも専門性の高い分野だと思います。口腔外科を通して、疾患1つ1つに対する考え方と治療方法を学び、全身管理を学ぶことは将来必ず役に立つと信じています。一緒にがんばりましょう!!

  • 経験した実務内容

    大学院の間は、研究を行うとともに外来での智歯抜歯を含む局所麻酔下での小手術をたくさん経験しました。医員になってからは、病棟を2年間経験して全身麻酔下での腫瘍や骨折等の手術、入院患者さんの全身管理を行いました。

  • 学んだこと

    一番は、研究と臨床を通して「道筋を立てて考える」ことを学びました。同じような疾患であっても、1症例1症例違いがあり、その1症例に対してに対して深く考え、真摯に向き合うことが大切だと学びました。また、治療に対してしっかりと準備をすることで、自ずと良い結果が返ってくるということも学びました。準備が大切です。さらには、芸出しを通して度胸も身に付きました!!

  • 余暇の過ごし方

    剣道したり、家族とお出かけしています。また、映画を見たり、漫画を読んでます!あとは、美味しいものを食べに行くことが好きです!

緒方 謙一

  • 入局を決めた理由

    学部学生の時から口腔外科に興味があったことと、大学院に進学して口腔外科領域の再生医療研究をしたいと思っていたからです。

  • 入局して良かった点

    一般歯科では経験のできない症例について勉強できたことです。また、口腔外科という科の特性上、親知らずの抜歯が多く経験できる点も良かったと思っています。
    教員の先生や諸先輩方がやさしく指導してくださったお陰で、今では難なく親知らずの抜歯ができるようになりました。

  • 後輩へのアドバイス

    まだ、口腔外科の臨床に戻ってきて1年程度で、臨床経験は浅いので日々勉強です。アドバイスらしいことは言えないですが、今自分にできることを全力ですることだと思います。
    あと、英語は話せるにこしたことはないので、勉強していて損はないと思います。

  • 経験した実務内容

    今は、口腔外科の臨床がメインです。当科は、外来医と病棟医が分かれており、そのどちらかに属して治療を行います。どちらに所属しても大変勉強になります。
    大学院生時代は、研究がメインでした。普段の臨床とは異なり、細胞培養や組織染色など通常では絶対に経験できないことができました。研究は本当に楽しいですよ!

  • 学んだこと

    大学院では、中村教授にお願いして、名古屋大学口腔外科で再生医療の研究を4年間させていただきました。自分がしたいことをやらせてもらえる医局です。大学院生時代に学んだことは、何事も論理的に考えてその解決方法を探るということです。これは、普段の臨床の現場にも言えることだと思います。何故こうなったかどうしたらもっと良い治療ができるのかを常に考えるようになりました。大学院進学に迷っている方は、是非進学されることをおすすめします。そして、一緒に臨床・研究をしましょう!

  • 余暇の過ごし方

    本を読むことが好きなので、暇さえあれば読書をしています。ジャンルは何でも読みます。あと、パンが好きなので、休日はベーカリー巡りをしています。

鎮守 晃

  • 入局を決めた理由

    専門的な知識や技術をつけたいと思っていたので、研修医終了後は大学病院に勤務することを考えていました。研修医として口腔外科の外来・病棟に勤務した際、抜歯などの外科手術を経験することができ、また全身管理についても学ぶことができました。個人的にも抜歯などの手術に興味があり、認定医も取得したいと思っていたので入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    一番多くの先生が所属する医局なので、多くの知り合いの先生と出会うことができたことが1番良かったと思います。外来・病棟の勤務でさまざまな疾患や患者さんを経験することができたことやアルバイトで一般歯科を勉強したり、歯科検診や衛生士学校の授業なども担当し、他にもさまざまな経験ができました。研究に関しては入局するまで全くの未知の世界だったのですが、素晴らしい指導医・先輩から研究の面白さを教わることができ、学会発表なので全国各地・外国にも行くことができたこともとても良かったと思います。

  • 後輩へのアドバイス

    大学院高学年となり、主に研究がメインの1年でした。研究を進める上で一番大事なことと実感したことは、自分で考えるということでした。実験で上手くいかなかったり、行き止まってしまったときに他の論文を探したり、先輩から意見をもらうことで、自分なりの考えを持って指導医の先生とさらなるディスカッションを交わすことが大事だと思いました。教授もよくおっしゃっているように「指導医から言われた通り」ではなく自分で考えて研究を進めるということは臨床医においても非常に重要だと思いました。

  • 経験した実務内容

    外来業務、病棟業務、研究、学会参加、衛生士学校への講義、歯科検診、非常勤での一般歯科

  • 学んだこと

    外来・病棟での勤務では、多種多様な疾患や患者さんを経験することで口腔外科に関する知識・技術を身につけることができたと思います。また、とても難しい症例や局面を経験することで、精神的にも成長できたと思います。研究面では、上手く行かなかった時に何がだめだったのかと原因を究明する力も養うことができたと思います。

  • 余暇の過ごし方

    買い物やスポーツ観戦(特にホークス)、旅行などで休みの日はリフレッシュしています。

石黒 乃理子

  • 入局を決めた理由

    学生時代から、大学院に進んで専門分野と強みを持った歯科医師になりたいと思っていました。もともと口腔外科や解剖に興味があったということもあり口腔外科を考えていたのですが、学生が終わる時にはまだ決断できていなかったため、研修は色々な科をローテートできる九州大学のA2コースを選択しました。研修医の時に実際に口腔外科業務を経験し様々な症例を持つ中で、大学病院でしかできないことが経験できる分野だと思ったので、口腔外科に入局いたしました。

  • 入局して良かった点

    研究も臨床もでき、バイトも行けるので一般歯科も経験できます。バイト先も医局が紹介してくれ、奨学金ももらっているので、金銭面の心配なく大学院生活を送れています。国内だけではなく国外(ノルウェー、アトランタ、ハワイ、フロリダ)の学会参加や発表も経験させてもらいました。新入生歓迎会、海、山登り、医局旅行、同門会、忘年会、などイベントもたくさんあるので先生方と仲良くなれます。

  • 後輩へのアドバイス

    入局した頃は全く何もわからなかった私ですが、口腔外科も4年目の今、抜歯だけのバイトも行けるようになり、研究も形になってきています。臨床においても研究においても、口腔外科にはたくさんの先輩方がおられ教えてくれますので、心配はいらないと思いますよ。

  • 経験した実務内容

    外来業務、病棟業務、研究、学会発表。

  • 学んだこと

    歯科の中でも特に全身に関わる分野だと思います。口の中だけではなく、全身を診ることの大切さを学びました。
    命に関わることもあるので、臨床では先生方は当然厳しい面もあります。一人一人の患者さんに向き合う姿勢は見習うべき点が多いです。

  • 余暇の過ごし方

    旅行に行ったり、実家の長崎に帰ったりとゆっくり過ごしています。夫や家族との時間も大切にするように心がけています。

松村 万由

  • 入局を決めた理由

    私が入局を決めた理由は、「今しか出来ないこと」がやりたいと思い入局を決めました。入局を決めるまでは色々と迷いましたが、手術室や外来での先生方の姿がとても素敵で魅力を感じたのを今でも覚えています。

  • 入局して良かった点

    入局して良かった点は、2つあります。まず一つ目は、学生の頃は苦手意識が強かった「口腔外科」が好きになれたことです。口腔外科は楽しいです。2つ目は沢山の方々との出会いがあったことです。医局の先生方をはじめ、病棟・外来スタッフ、患者さん、他科の先生方、学生の皆さんなど挙げたらキリがありませんが、本当に多くの方々との出会いによって、今の自分があることを実感してます。

  • 後輩へのアドバイス

    入局を考えてる皆さんに出来るアドバイスとしては、口腔外科に進んだとしても、一歯科医師として、目の前にいる患者さんに必要な治療計画を立てて、実践出来ることが必要だと思います。その為には、歯周、歯内、補綴、小児、矯正、外科のすべてのことを学んでいく必要があることを実感しました。なので、どこの科に進路を決めるというよりも、どこの科を中心に自分のなりたい歯科医師像に近づいていくかだと思います。まずは、どんな歯科医師になりたいかを考えてみてください!!外科を中心にしてみませんか?一緒に頑張りましょう!!大歓迎です!!!

  • 経験した実務内容

    入局して3年目ですが、外来を6ヶ月、病棟を1年6ヶ月経験しました。抜歯や外科小手術を学んだり、病棟では口唇口蓋裂、悪性腫瘍や骨折などの手術の助手で入ることもあります。その他にも、歯科医院での勤務も非常勤でしており、一般歯科も学んでいます。

  • 学んだこと

    入局して3年目ですが、昨年は病棟で様々なことを経験させて頂きました。その中でも、特に印象深く残っているのは患者さんの命に向き合う場面が多かったことです。患者さんの体にメスを入れて、術をなすことに対しての準備と責任感を感じました。それは、歯科医師として働いていく上でどんな治療にも通ずることなのではないかと思います。

  • 余暇の過ごし方

    休みの日は、友達や家族と過ごすことが多いです。また、定期的に先生方のご自宅でホームパーティー(年初めの餅つき大会、BBQなど)が開催されます。仕事場の先生方とは違い、アットホームな雰囲気でとても楽しいです。

宗村 龍裕

  • 入局を決めた理由

    口腔外科に興味があり、学生実習および研修医時代に顎口腔外科での診療に魅力を感じたため。

  • 入局して良かった点

    新入局員が1人であり、例年以上に多くの症例を経験出来ていること。

  • 後輩へのアドバイス

    入局1年目ですが、多くの症例を経験出来、非常に充実した日々を過ごせています。

  • 経験した実務内容

    病棟業務

  • 学んだこと

    一つ一つの症例に対する考え方。

  • 余暇の過ごし方

    買い物や旅行、趣味に時間を費やしています。

留学体験記
Experience

  • 前原隆
  • 緒方謙一
  • 金子直樹
留学を振り返って

前原 隆

私は2007年に九州大学歯学部を卒業し、研修医を経て2008年に九州大学大学院歯学府 顎顔面腫瘍制御学分野専攻 博士課程に進学しました。大学院修了後は九州大学病院顎口腔外科で3年間の外来・病棟勤務を経て、2015年からハーバード大学の Ragon Institute of MGH, MIT and Harvard ( (http://www.ragoninstitute.org))で研究留学する機会を頂きました。
研究内容は、難治性疾患といわれる治療法が確立されていないシェーグレン症候群、IgG4関連疾患や全身性強皮症などの膠原病を専門にしています。膠原病というのは、自分自身の体を攻撃してしまうリンパ球や自己抗体などが認められる自己免疫疾患です。自己免疫疾患の病態は未だ不明なことが多く、治療法が確立していません。そのため病態を解明し、新規治療法を開発することを目指して、リンパ球の中で免疫の司令塔であるもT細胞に着目して研究を続けています。
留学するきっかけとなったのは、私の大学院時代の研究テーマでもあった IgG4関連疾患の病態解明をハーバード大学のJohn Stone教授と Shiv Pillai教授のグループが精力的に行っていたことから、そこで研究したいという強い思いがありました。2014年にハワイで行われた国際学会で、留学先のボスと話すチャンスを頂きその 1 年後に留学のチャンスを掴むことができました。2015年3月から2018年3月まで3年間のアメリカ生活の始まりでした。
私の留学先での研究テーマは、ヒト難治性疾患の T 細胞に関する病態解明という大きなテーマで、当時流行っていた、多重蛍光免疫染色やシングルセル次世代シークエンス解析などを用いて、新規のT細胞サブセットを同定し、それが IgG4関連疾患の病態形成と線維化に関与することを見出しました。
またこの T細胞をターゲットとした新規分子標的薬治療が有効であることを明らかにしました。留学先での仕事を3本の論文にまとめましたが、そのうち2本がNatureレビュー誌でリサーチハイライトとして紹介され、2017年にハワイで開催された国際学会ではシンポジストとして講演する機会もありました。アメリカでの研究生活で得たものは、研究論文だけでなく実際にアメリカで仕事して生活するという貴重な経験を積むことができました。2018年4月からは現在の九州大学顎口腔外科に赴任することとなり、現在は手術などの臨床で忙しくなってきましたが、研究マインドを忘れずに仕事を続けております。帰国した後もハーバード大学との国際共同研究を継続しており、留学中にできた世界的なネットワークが今の仕事を進めていく上でも生かされています。今後も研究に臨床にと、真摯な姿勢で取り組むとともに、自分自身が楽しんで仕事に邁進していきたいと思っています。

図1 ラボのメンバー

図1 ラボのメンバー

Boston 生活についても少し振り返ってみると、日本と同様に四季があり、春は新緑がとても綺麗で過ごしやすい場所でした。7月4日はアメリカ独立記念日です。ボストン市内を流れるチャールズリバー(図2)のほとりにあるハッチシェルで、ボストンポップスによる演奏会があります(図3)。空軍の戦闘機も飛ぶし、空砲の合図でフェスティバルが始まります。フィナーレには花火が打ち上がります。July 4thが終わると短い夏が来ます。カラッとした空気と澄み渡る青い空はとても綺麗です。寒暖の差があるため秋の紅葉はとても綺麗で、ボストンの街並みがヨーロッパに似ていることもあり、街中のいたるところが絵になる光景でした。秋が終わると、長い冬が始まります。寒さは厳しく時にマイナス20℃になることもあり、ボストンの中心を流れるチャールズリバーが凍結することもありました。

気づけばあっという間に終わった3年間でしたが、ボストンは私たち家族にとっても第二の故郷となりました。

最後になりましたが、留学の後押しをして下さった中村誠司教授や市立長浜病院リウマチ膠原病内科の梅原久範先生、福岡大学腎臓・膠原病内科の中島衡教授、長岡赤十字病院の佐伯敬子先生のお力添えのお陰様で研究成果を出すことができました。さらにたくさんの医局員の先生にも助けて頂きました。皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。また留学の苦楽を共にした家族にも心から感謝します。

  • 図2 チャールズリバー

    図2 チャールズリバー

  • 図3 ハッチシェルでの July 4th

    図3 ハッチシェルでの July 4th

The University of Texas Health Science Center at Houston (UTHealth) 留学記

緒方 謙一

2018年9月から2019年9月までの1年間、アメリカテキサス州ヒューストンにあるThe University of Texas Health Science Center at Houston (UTHealth) に留学していました。ヒューストンはテキサス州の南東部に位置し、全米第4位の大都市です。テキサス州南部はメキシコと国境を接しているため、メキシコ系の人が多く、公共交通機関や公的機関でも英語と共にスペイン語が併記してあり、お店でもよくスペイン語を耳にします。さらにテキサス州は、その広大な土地と雄大な自然も魅力の一つです。それもそのはず、テキサス州の土地面積は日本の約2倍なのです!ヒューストン市内から車で30分ぐらい走ると、周囲には高い建物もなくなり、次第に一面に広がる荒野…永遠に続く1本道と彼方に見える地平線…さながら映画のワンシーンのような風景を経験できます。 一方で、ヒューストンにはテキサス医療センターという医療研究機関の集積地があります。見渡す限り大学か病院もしくは研究機関の建物で、一つの研究都市の様相を呈しています。ベイラー医科大学、テキサス大学健康科学センターヒューストン校、メソジスト病院、テキサス子ども病院、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターなどがあります。
私は、Visiting ScientistとしてUTHealthのDepartment of Diagnostic & Biomedical Sciencesに所属していました。私がいた研究棟では、Craniofacial Researchが盛んに行われており、ここでの私の1つ目の研究テーマは、唾液腺のexocytosisの分子メカニズムの研究でした。特に、現在詳細な機能がまだ分かっていないGolgi-Associated ATPase Enhancer of 16 kDa (GATE16)に着目し、exocytosisにどのように関与しているのかをノックアウトマウスの唾液腺を用いて解析していました。2つ目の研究テーマは骨形成とコレステロール代謝に関する研究でした。コレステロール代謝を制御しているInsulin induced gene 1および2 (INSIG1/2)、コレステロール産生の最終段階に関わる7-dehydrocholesterol reductase (DHCR7)をそれぞれノックアウトしたマウスを使って骨形成がどのように変化するかを研究しました。
留学して良かったことは、じっくり腰を据えて論理的に考える時間が得られたということです。日々研究をしながら、実験結果を一つひとつ「これにはどういった意味があるのだろう?」と考え、未知の領域を自分自身で開拓していく楽しみを、そしてときには辛さを経験することができました。診療があるとなかなかそういったことはできないと思います。また、テキサス州は英語のなまりが強いため、初めは聞き取りに大変苦労しました。もともと英語のヒアリングやスピーキングはそれ程得意ではなく、どちらかというと苦手な部類でした。しかし、半年もすると英語の聞き取りも慣れ、「英語は所詮コミュニケーションのツールでしかないし、通じればへたくそでもいいや」と開き直ることができました。最後のほうでは、ラボのメンバーと英語で雑談できるようにまでになり英語を聞いたり話したりすることに対して抵抗がなくなりました。
もちろん、留学は楽しい事も多いですが、それ以上に大変でつらいことも多いです。海外という完全にアウェーな状況で、英語が上手く話せないし通じない、しかも生活習慣も現地のやり方に合わせながらの生活、それに加えてトラブルも色々とついてまわります。今でも忘れられない最大のトラブルは、渡米後1か月も経たないうちに車で追突事故を起こされたことです。日本でも事故を起こしたこともないのに、言葉の通じない外国で…その時は、警察・事故を起こした相手・保険会社とのやり取りに奔走しました。しかし、その経験を通して学んだことは、「黙っていては誰も助けてはくれない。そして自分から発信しないと誰も気づいてくれない」ということです。そういった意味では、人として強くなったのかもしれません。
ここまで読んだ方で、「留学したいけど、私にできるかな…」と思った方も多いと思います。しかし、刺激を与えてくれる人や環境がそこにはあります。英語が苦手だった私にとって、海外留学はとても大きな挑戦でした。自分の力を信じて挑戦してみる…そんな経験が、きっと今後自分の人生を豊かなものにしてくれると思います。
最後になりましたが、このような海外留学の機会を与えてくださいました、中村誠司教授をはじめ大学関係者の方々、医局の先生方、また私を快く受け入れてくださいましたUTHealthのDr. Junichi Iwata、そして苦楽を共にした妻に心より感謝申し上げます。

  • 写真1. Iwata labのメンバーと。

    写真1. Iwata labのメンバーと。

  • 写真2. The 2019 Rolanette and Berdon Lawrence Bone Disease Program of Texas Scientific Retreatにて。Dr. Iwata(右)と。

    写真2. The 2019 Rolanette and Berdon Lawrence Bone Disease Program of Texas Scientific Retreatにて。Dr. Iwata(右)と。

  • 写真3. White Sands National Monument

    写真3. White Sands National Monument

Boston 留学体験記

金子 直樹

 私は2018年4月より、BostonにあるMassachusetts General HospitalのRagon Instituteという研究所に留学しております。僭越ながら、私のこちらでの生活について、体験記という形でお伝えできる機会をいただきました。留学中の海外生活はどんなものなのかと軽い気持ちでお付き合いいただければ幸いです。

 BostonはNew Yorkの北東に位置し、アメリカの中でも最も歴史ある街の一つです。Harvard大学、MITそしてBoston大学といった多くの大学があり、学術都市としても有名です。Massachusetts General HospitalはHarvard医科大学の関連病院の一つで、中でもRagon InstituteはHIVやインフルエンザなどのウイルス感染症を専門に扱う研究所です。私はここで自己免疫疾患(IgG4関連疾患、シェーグレン症候群、硬皮症、リウマチ、線維性縦隔炎)の病態解明を目指し、九州大学病院の顎口腔外科と共同研究を進めています。

 留学当初は文字通り期待と不安を胸に渡航いたしましたが、正直申しますと私にとっての留学生活は楽しいことばかりではありませんでした。それどころか、初めの半年程度は常に気分は沈んでおりました。大きな一つの要因はやはり英語によるコミュニケーションが難しいことです。他の同僚は皆親切だったのですが、当然ながら各々仕事があり、英語が話せない私に手取り足取り全てを教えてくれるほど暇ではありません。積極的にコミュニケーションを取らなければ、相手にされません。私は自分から全く話しかけなかった(かけられなかった)ので、今思うと『彼は一人でいたいのだろう』と皆から思われていたことでしょう。私は比較的コミュニケーションに自信があったのですが、早々にその自信は砕かれました。粉々です。言語のみならず当然文化も異なります。日本ではほぼ間違いなくスムーズに終わることが、体感上6~7割程度の事柄は一旦滞ります。日本に比較すると、アメリカは良くも悪くも大雑把な所が多いように感じます。このように留学当初は様々な面において苦しんでいたことを鮮明に覚えています。

 しかし時が経てば、それにも慣れてきてしまうのが、人間の適応能力の高さなのでしょう。英語が話せないなりにも同僚とコミュニケーションを取る方法を学び、アメリカと日本の文化の違いも少しずつ理解できてきたのが約1年半経過後です。その頃になると(1年半でやっと!)ラボで進めている研究プロジェクトの概要が理解できるようになってきました。それに伴い、ラボの同僚ともディスカッションを含め会話が増え、自然と留学生活が楽になっていったのを覚えています。

 そのように少しずつ軌道に乗ってきたように見えた留学生活ですが、予想外の出来事が世界中を襲います。新型コロナウィルス (COVID-19) です。研究室は閉鎖し、外出も自粛、日に日に感染者数が増加し、まさに先の見えない暗闇にいるようでした。一方で、Bostonは世界屈指の医薬系研究のメッカの一つです。私の留学先であるRagon Instituteはウイルス感染症をメインに研究しておりましたので、COVID-19の研究も有志で先陣を切って取り組むことが決まり、私もその一員として参加させていただくことができました。その時期は毎週のように大規模なonline meetingが開かれ、論文公開前の新しいデータを多施設で共有、ディスカッションし治療法や病態解明を目指し協力していました。それぞれの報告は先の見えない暗闇を照らす光明であり、人類が協力することの力を肌で感じました。そのような中で私たちのグループは、COVID-19における特異な免疫反応の解明に従事し、論文(Kaneko N, et al : Cell, 183 : 143-157.e13, 2020)として発表しました。PI、co-author、多くの関係者、そして何より多くの患者さんとそのご家族の協力がなければこの研究はなり得ませんでした。改めてこの場を借りて深謝いたします。またCOVID-19による多くの犠牲者に哀悼の意を表します。この原稿を執筆現在(2021年1月)も次々と素晴らしい成果が報告されており、ワクチンの接種も開始されています。将来的にCOVID-19の制圧は約束されていると感じています。私自身も帰国までの間、自己免疫疾患およびCOVID-19の病態解明において少しでも良い成果を挙げられるよう尽力いたします。

 延々と私の留学生活を記しましたが、留学生活は研究がメインではありますがそれだけではなく、私生活でも予想外のことが度々起きます。それも含めての留学生活だと思いますが、ここまで読んでくださった皆様でもし留学を考えている方がいらっしゃいましたら是非留学をお勧めいたします。前述のように、私にとって留学はとても大変なものでしたし、気持ちが沈むことも少なくありませんでした。それでも途中で帰りたいと思ったことは一度もなかったと思います。きっと辛い中にも自身の成長を感じることができる機会が多かったからではないかと思っています。私がこの地で経験した一つ一つは大変なことも含めすべて貴重な体験です。この拙文が、留学を考えている皆様の背中を少しでも押すことができるのならそれに勝る光栄はありません。

 最後になりましたが、留学の後押しをして下さった中村誠司教授と前原隆先生、そしてたくさんの医局員の先生方皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。また常に傍で私を支えてくれている家族に心より感謝申し上げます。

  • PIのProf. Shiv Pillai、当科の前原先生と筆者

    PIのProf. Shiv Pillai、
    当科の前原先生と筆者

  • 早朝のチャールズリバー。Bostonはとても美しい街です。

    早朝のチャールズリバー。
    Bostonはとても美しい街です。

  • Labの仲間達と。Bostonでもラーメンは人気です。

    Labの仲間達と。
    Bostonでもラーメンは人気です。

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