九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野 九州大学病院 顎口腔外科

入局希望者・歯学生の方へFor students and residents

先輩の声

インタビュー
Interview

  • 坂本 泰基
  • 鎮守 晃
  • 宮原 佑佳
  • 末吉 智貴
  • 長野 晴紀
  • 内田 有香

坂本 泰基

  • 入局を決めた理由

    歯学部1年生の時の病院見学実習において口腔外科という分野に興味を持ち、口腔外科の講義を受けてもっとこの分野について勉強したいと思いました。特に口腔がんの研究および臨床に携わりたいと考え、入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    大学院では、研究を行うことにより「考える力」を養うことができました。その力は臨床にも役に立っていると感じています。医員になってからは、一般歯科では対応困難な口腔外科疾患に対する治療の組み立て方を学び、実際に執刀することでさらに知識を深めるとともに責任感が芽生え、それが充実感につながります。口腔外科を選んで良かったと感じています。また、高い目標に向かって頑張れる同僚がたくさんいることも魅力です。

  • 後輩へのアドバイス

    口腔外科は歯科の分野の中でも専門性の高い分野だと思います。口腔外科を通して、疾患1つ1つに対する考え方と治療方法を学び、全身管理を学ぶことは将来必ず役に立つと信じています。一緒にがんばりましょう!!

  • 経験した実務内容

    大学院の間は、研究を行うとともに外来での智歯抜歯を含む局所麻酔下での小手術をたくさん経験しました。医員になってからは、病棟を2年間経験して全身麻酔下での腫瘍や骨折等の手術、入院患者さんの全身管理を行いました。

  • 学んだこと

    一番は、研究と臨床を通して「道筋を立てて考える」ことを学びました。同じような疾患であっても、1症例1症例違いがあり、その1症例に対してに対して深く考え、真摯に向き合うことが大切だと学びました。また、治療に対してしっかりと準備をすることで、自ずと良い結果が返ってくるということも学びました。準備が大切です。さらには、芸出しを通して度胸も身に付きました!!

  • 余暇の過ごし方

    剣道したり、家族とお出かけしています。また、映画を見たり、漫画を読んでます!あとは、美味しいものを食べに行くことが好きです!

鎮守 晃

  • 入局を決めた理由

    専門的な知識や技術をつけたいと思っていたので、研修医終了後は大学病院に勤務することを考えていました。研修医として口腔外科の外来・病棟に勤務した際、抜歯などの外科手術を経験することができ、また全身管理についても学ぶことができました。個人的にも抜歯などの手術に興味があり、認定医も取得したいと思っていたので入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    一番多くの先生が所属する医局なので、多くの知り合いの先生と出会うことができたことが1番良かったと思います。外来・病棟の勤務でさまざまな疾患や患者さんを経験することができたことやアルバイトで一般歯科を勉強したり、歯科検診や衛生士学校の授業なども担当し、他にもさまざまな経験ができました。研究に関しては入局するまで全くの未知の世界だったのですが、素晴らしい指導医・先輩から研究の面白さを教わることができ、学会発表なので全国各地・外国にも行くことができたこともとても良かったと思います。

  • 後輩へのアドバイス

    大学院高学年となり、主に研究がメインの1年でした。研究を進める上で一番大事なことと実感したことは、自分で考えるということでした。実験で上手くいかなかったり、行き止まってしまったときに他の論文を探したり、先輩から意見をもらうことで、自分なりの考えを持って指導医の先生とさらなるディスカッションを交わすことが大事だと思いました。教授もよくおっしゃっているように「指導医から言われた通り」ではなく自分で考えて研究を進めるということは臨床医においても非常に重要だと思いました。

  • 経験した実務内容

    外来業務、病棟業務、研究、学会参加、衛生士学校への講義、歯科検診、非常勤での一般歯科

  • 学んだこと

    外来・病棟での勤務では、多種多様な疾患や患者さんを経験することで口腔外科に関する知識・技術を身につけることができたと思います。また、とても難しい症例や局面を経験することで、精神的にも成長できたと思います。研究面では、上手く行かなかった時に何がだめだったのかと原因を究明する力も養うことができたと思います。

  • 余暇の過ごし方

    買い物やスポーツ観戦(特にホークス)、旅行などで休みの日はリフレッシュしています。

宮原 佑佳

  • 入局を決めた理由

    学生の時から、まずは専門的な知識と技術を身につけて強みを持った歯科医師になりたいと思っていました。学生や研修医の時に、実際に口腔外科の先生方の診療する姿をみて、自分も抜歯などの小手術や全身管理について学んでできるようになりたいなと思い入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    大学での臨床や研究だけでなく、バイトも行けるので一般歯科についても学ぶことができます。また、入局しなければ出会えないような、研究や臨床でトップクラスの先生方と出会うことができたことは自分の財産になったと思います。

  • 後輩へのアドバイス

    入局した時はすごく不安でしたが、たくさんの先生方に支えていただきながら、すごく充実した日々を過ごせています。最初は何もわからず、できなくて不安でしたが、先生方に優しく丁寧にご指導していただき、臨床では抜歯だけのバイトの行くことができるようになったり、研究でも国内だけでなく国外の学会参加や発表をすることができるようになったりとできることも少しずつ増えてきています。臨床においても研究においても、口腔外科にはたくさんの先輩方が優しく教えてくれますので、心配はいらないと思います。

  • 経験した実務内容

    外来業務、病棟業務、研究、学会参加、衛生士学校への講義、歯科検診、非常勤での一般歯科

  • 学んだこと

    患者さん一人一人に対して真摯に向き合うことが大切だと学びました。また、研究でも臨床でも、目の前のことに対して、なぜそうなったのかどうしたらもっと良くなるのかと深く考えることが重要だと感じました。

  • 余暇の過ごし方

    買い物や旅行などに行ったり、友人と美味しいお店にご飯を食べに出かけたりしてリフレッシュしています。

末吉 智貴

  • 入局を決めた理由

    私は学生の時の臨床実習で、外来での小手術や、全身麻酔下での手術を見学し、口腔外科にとても興味を持ちました。卒後は口腔外科を専門的に学ぼうと考え、同じ大学出身の先輩が多く在籍している九州大学顎口腔外科に入局を決めました。

  • 入局して良かった点

    私は九州大学出身ではありませんが、同じ大学出身の先輩方がたくさんいらっしゃるため、すぐに溶け込むことができたように思います。 普段の臨床、研究に加えて、アルバイトも行くことができ、奨学金もあるため金銭面に関しては不自由ありません。 また、学会に参加したり歓迎会や忘年会などのイベントもあったりなど、医局の先生方とさらに仲良くなれます。

  • 後輩へのアドバイス

    口腔外科では一般歯科では学べないことが本当にたくさん学べますし、将来的に一般歯科をする時も活かせることがたくさんあります。口腔外科は忙しくて大変なイメージがあると思いますが、それだけ充実していますし得られるものも大きいです。医局の先生方も臨床や研究の相談を親身になって聞いてくれて、アドバイスしてくださります。口腔外科に興味がある人はもちろんですが、どこに進むか迷っている人にも口腔外科をオススメします。

  • 経験した実務内容

    外来、病棟業務
    研究
    学会発表

  • 学んだこと

    臨床面では、患者数が多いためさまざまな症例を経験することができ、大変勉強になりました。外来、病棟勤務で手術手技や入院患者さんの管理などを多くの先生方から教えていただきました。また、治療方針について何度も検討を重ねる上で、口腔外科がさらに好きになりました。 研究面では、今まで全く経験がありませんでしたが、同じ研究チームの先生方に丁寧に指導していただいています。研究では、仮説を立て、それを実証するためには何が必要なのか、論理的に道筋立てて考える力が身についたと思います。また学会発表もさせていただき、大勢の人の前でプレゼンをしたことが一度もなかった私にとっては、大変良い経験になりました。

  • 余暇の過ごし方

    休みの日は日中なるべくランニングや筋トレなど運動をして、夜は美味しいお酒を楽しんでいます。また、最近はサウナにも行き始め、充実した休日を過ごしています。

長野 晴紀

  • 入局を決めた理由

    私が入局を決めた理由は、口腔外科の専門的知識および技術を身に付けたいと考えたことと、免疫学の研究を行いたいと考えたからです。臨床では、口腔外科全般を扱っており、様々な症例に携わることができます。さらに、口腔がん、顎変形症、口唇口蓋裂などの専門に特化した先生が在籍しており、口腔外科の手術手技を学ぶことができます。また、免疫学の研究において、日本で最前線の研究者の先生方が在籍しており、免疫学の研究の手法や考え方を学ぶことができます。

  • 入局して良かった点

    まずは、臨床と研究どちらも行うことができる点です。研究だけでなく抜歯などの小手術を執刀したり、全身麻酔での手術を助手として経験できます。次に、奨学金の活用や医局での非常勤勤務の歯科医院を紹介などがあり、金銭面での心配なく、臨床と研究に従事できます。また、免疫学の研究において、日本で最前線の研究者の先生方が在籍しており、免疫学の研究の手法や考え方をしっかりと学ぶことができます。

  • 後輩へのアドバイス

    学部生、歯科研修医の皆さんには、いろんな選択肢があることを伝えたいです。そして、色々な所に見学に行き、少しでも選択肢を広げることが大事だと思います。私は歯科研修医で、歯科全般を学びましたが、現在の口腔外科でとても役立っています。逆もそうだと思います。口腔外科の知識があれば、日々の診療でも緊急を要する患者さんの診断を行うことができ、外科的な手技についてどういったリスクがあるのか考えることができます。
    もちろん、口腔外科を目指している方はとても大歓迎です。ぜひ一緒に臨床や研究をしましょう!

  • 経験した実務内容

    外来業務、病棟業務、研究、歯科検診、非常勤での一般歯科

  • 学んだこと

    口腔外科の専門的知識および技術を様々な症例に携わる中で、指導教員の先生方や先輩の先生方にたくさんご指導いただきながら、1年間学んできました。免疫学の研究においても、研究の手法や考え方を指導教員や研究室の先輩方にご指導いただきました。臨床であればガイドラインに従って治療方針を決定し、研究であれば教科書に従って仮説を立てて実験することが肝要であると学びました。臨床と研究どちらも論理的に考えることが重要であると実感しました。

  • 余暇の過ごし方

    休みの日は、家族と過ごすことが多いです。また、買い物や旅行でリフレッシュしています。

内田 有香

  • 入局を決めた理由

    姉が口腔外科医ということもあり、学生のころから口腔外科の分野には興味がありました。九大での研修で本格的に専門的なことを学び強みを手に入れたいと思い、今後長く腰を据えて働こうという思いで大学院への進学を決めました。

  • 入局して良かった点

    たくさんの先生が在籍している大所帯の医局のため、それだけ多くの診療のやり方を学べる点が魅力です。先生方も気さくな方が多いため、様々な話を聞くことができる環境にあります。今後の研究や臨床に関しても自分の挑戦したいことに対してサポートしてくださるので安心して励むことができると感じました。

  • 後輩へのアドバイス

    口腔外科というと厳しくて忙しいというイメージがあると思いますが、その分とてもやりがいのある仕事だと思います。他科とのつながりも多く歯科の分野を超えた知識をもって患者の治療にあたるというのも口腔外科の魅力の一つだと思います。

  • 経験した実務内容

    まだ入局して1か月ほどですが、すでに何例かの治療にかかわらせてもらいました。私が現在行っている病棟勤務では全身麻酔下で口腔領域の手術を行います。意識がないとはいえ患者さんの身体にメスを入れ侵襲的な治療を行うわけなので、過去の手術動画や手順を入念に予習します。

  • 学んだこと

    口腔外科では腫瘍・口腔粘膜疾患・顎変形症など幅広い症例を扱うため、解剖などの基礎的なことから患者さん自身の全身状態についてなど十分な知識、また豊富な経験を積む必要があります。ベテランの先生方が常に研鑽を積んでいる姿をみていると、自分は何百倍も頑張らなくてはいけないと日々感じます。

  • 余暇の過ごし方

    ゴルフと旅行が趣味なので、休みの日を利用して友人と遊びに行きます。一人でぶらぶら散歩するのも好きです。

留学体験記
Experience

  • 前原隆
  • 緒方謙一
  • 金子直樹
留学を振り返って

前原 隆

私は2007年に九州大学歯学部を卒業し、研修医を経て2008年に九州大学大学院歯学府 顎顔面腫瘍制御学分野専攻 博士課程に進学しました。大学院修了後は九州大学病院顎口腔外科で3年間の外来・病棟勤務を経て、2015年からハーバード大学の Ragon Institute of MGH, MIT and Harvard ( (http://www.ragoninstitute.org))で研究留学する機会を頂きました。
研究内容は、難治性疾患といわれる治療法が確立されていないシェーグレン症候群、IgG4関連疾患や全身性強皮症などの膠原病を専門にしています。膠原病というのは、自分自身の体を攻撃してしまうリンパ球や自己抗体などが認められる自己免疫疾患です。自己免疫疾患の病態は未だ不明なことが多く、治療法が確立していません。そのため病態を解明し、新規治療法を開発することを目指して、リンパ球の中で免疫の司令塔であるもT細胞に着目して研究を続けています。
留学するきっかけとなったのは、私の大学院時代の研究テーマでもあった IgG4関連疾患の病態解明をハーバード大学のJohn Stone教授と Shiv Pillai教授のグループが精力的に行っていたことから、そこで研究したいという強い思いがありました。2014年にハワイで行われた国際学会で、留学先のボスと話すチャンスを頂きその 1 年後に留学のチャンスを掴むことができました。2015年3月から2018年3月まで3年間のアメリカ生活の始まりでした。
私の留学先での研究テーマは、ヒト難治性疾患の T 細胞に関する病態解明という大きなテーマで、当時流行っていた、多重蛍光免疫染色やシングルセル次世代シークエンス解析などを用いて、新規のT細胞サブセットを同定し、それが IgG4関連疾患の病態形成と線維化に関与することを見出しました。
またこの T細胞をターゲットとした新規分子標的薬治療が有効であることを明らかにしました。留学先での仕事を3本の論文にまとめましたが、そのうち2本がNatureレビュー誌でリサーチハイライトとして紹介され、2017年にハワイで開催された国際学会ではシンポジストとして講演する機会もありました。アメリカでの研究生活で得たものは、研究論文だけでなく実際にアメリカで仕事して生活するという貴重な経験を積むことができました。2018年4月からは現在の九州大学顎口腔外科に赴任することとなり、現在は手術などの臨床で忙しくなってきましたが、研究マインドを忘れずに仕事を続けております。帰国した後もハーバード大学との国際共同研究を継続しており、留学中にできた世界的なネットワークが今の仕事を進めていく上でも生かされています。今後も研究に臨床にと、真摯な姿勢で取り組むとともに、自分自身が楽しんで仕事に邁進していきたいと思っています。

図1 ラボのメンバー

図1 ラボのメンバー

Boston 生活についても少し振り返ってみると、日本と同様に四季があり、春は新緑がとても綺麗で過ごしやすい場所でした。7月4日はアメリカ独立記念日です。ボストン市内を流れるチャールズリバー(図2)のほとりにあるハッチシェルで、ボストンポップスによる演奏会があります(図3)。空軍の戦闘機も飛ぶし、空砲の合図でフェスティバルが始まります。フィナーレには花火が打ち上がります。July 4thが終わると短い夏が来ます。カラッとした空気と澄み渡る青い空はとても綺麗です。寒暖の差があるため秋の紅葉はとても綺麗で、ボストンの街並みがヨーロッパに似ていることもあり、街中のいたるところが絵になる光景でした。秋が終わると、長い冬が始まります。寒さは厳しく時にマイナス20℃になることもあり、ボストンの中心を流れるチャールズリバーが凍結することもありました。

気づけばあっという間に終わった3年間でしたが、ボストンは私たち家族にとっても第二の故郷となりました。

最後になりましたが、留学の後押しをして下さった中村誠司教授や市立長浜病院リウマチ膠原病内科の梅原久範先生、福岡大学腎臓・膠原病内科の中島衡教授、長岡赤十字病院の佐伯敬子先生のお力添えのお陰様で研究成果を出すことができました。さらにたくさんの医局員の先生にも助けて頂きました。皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。また留学の苦楽を共にした家族にも心から感謝します。

  • 図2 チャールズリバー

    図2 チャールズリバー

  • 図3 ハッチシェルでの July 4th

    図3 ハッチシェルでの July 4th

The University of Texas Health Science Center at Houston (UTHealth) 留学記

緒方 謙一

2018年9月から2019年9月までの1年間、アメリカテキサス州ヒューストンにあるThe University of Texas Health Science Center at Houston (UTHealth) に留学していました。ヒューストンはテキサス州の南東部に位置し、全米第4位の大都市です。テキサス州南部はメキシコと国境を接しているため、メキシコ系の人が多く、公共交通機関や公的機関でも英語と共にスペイン語が併記してあり、お店でもよくスペイン語を耳にします。さらにテキサス州は、その広大な土地と雄大な自然も魅力の一つです。それもそのはず、テキサス州の土地面積は日本の約2倍なのです!ヒューストン市内から車で30分ぐらい走ると、周囲には高い建物もなくなり、次第に一面に広がる荒野…永遠に続く1本道と彼方に見える地平線…さながら映画のワンシーンのような風景を経験できます。 一方で、ヒューストンにはテキサス医療センターという医療研究機関の集積地があります。見渡す限り大学か病院もしくは研究機関の建物で、一つの研究都市の様相を呈しています。ベイラー医科大学、テキサス大学健康科学センターヒューストン校、メソジスト病院、テキサス子ども病院、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターなどがあります。
私は、Visiting ScientistとしてUTHealthのDepartment of Diagnostic & Biomedical Sciencesに所属していました。私がいた研究棟では、Craniofacial Researchが盛んに行われており、ここでの私の1つ目の研究テーマは、唾液腺のexocytosisの分子メカニズムの研究でした。特に、現在詳細な機能がまだ分かっていないGolgi-Associated ATPase Enhancer of 16 kDa (GATE16)に着目し、exocytosisにどのように関与しているのかをノックアウトマウスの唾液腺を用いて解析していました。2つ目の研究テーマは骨形成とコレステロール代謝に関する研究でした。コレステロール代謝を制御しているInsulin induced gene 1および2 (INSIG1/2)、コレステロール産生の最終段階に関わる7-dehydrocholesterol reductase (DHCR7)をそれぞれノックアウトしたマウスを使って骨形成がどのように変化するかを研究しました。
留学して良かったことは、じっくり腰を据えて論理的に考える時間が得られたということです。日々研究をしながら、実験結果を一つひとつ「これにはどういった意味があるのだろう?」と考え、未知の領域を自分自身で開拓していく楽しみを、そしてときには辛さを経験することができました。診療があるとなかなかそういったことはできないと思います。また、テキサス州は英語のなまりが強いため、初めは聞き取りに大変苦労しました。もともと英語のヒアリングやスピーキングはそれ程得意ではなく、どちらかというと苦手な部類でした。しかし、半年もすると英語の聞き取りも慣れ、「英語は所詮コミュニケーションのツールでしかないし、通じればへたくそでもいいや」と開き直ることができました。最後のほうでは、ラボのメンバーと英語で雑談できるようにまでになり英語を聞いたり話したりすることに対して抵抗がなくなりました。
もちろん、留学は楽しい事も多いですが、それ以上に大変でつらいことも多いです。海外という完全にアウェーな状況で、英語が上手く話せないし通じない、しかも生活習慣も現地のやり方に合わせながらの生活、それに加えてトラブルも色々とついてまわります。今でも忘れられない最大のトラブルは、渡米後1か月も経たないうちに車で追突事故を起こされたことです。日本でも事故を起こしたこともないのに、言葉の通じない外国で…その時は、警察・事故を起こした相手・保険会社とのやり取りに奔走しました。しかし、その経験を通して学んだことは、「黙っていては誰も助けてはくれない。そして自分から発信しないと誰も気づいてくれない」ということです。そういった意味では、人として強くなったのかもしれません。
ここまで読んだ方で、「留学したいけど、私にできるかな…」と思った方も多いと思います。しかし、刺激を与えてくれる人や環境がそこにはあります。英語が苦手だった私にとって、海外留学はとても大きな挑戦でした。自分の力を信じて挑戦してみる…そんな経験が、きっと今後自分の人生を豊かなものにしてくれると思います。
最後になりましたが、このような海外留学の機会を与えてくださいました、中村誠司教授をはじめ大学関係者の方々、医局の先生方、また私を快く受け入れてくださいましたUTHealthのDr. Junichi Iwata、そして苦楽を共にした妻に心より感謝申し上げます。

  • 写真1. Iwata labのメンバーと。

    写真1. Iwata labのメンバーと。

  • 写真2. The 2019 Rolanette and Berdon Lawrence Bone Disease Program of Texas Scientific Retreatにて。Dr. Iwata(右)と。

    写真2. The 2019 Rolanette and Berdon Lawrence Bone Disease Program of Texas Scientific Retreatにて。Dr. Iwata(右)と。

  • 写真3. White Sands National Monument

    写真3. White Sands National Monument

Boston 留学体験記

金子 直樹

 私は2018年4月より、BostonにあるMassachusetts General HospitalのRagon Instituteという研究所に留学しております。僭越ながら、私のこちらでの生活について、体験記という形でお伝えできる機会をいただきました。留学中の海外生活はどんなものなのかと軽い気持ちでお付き合いいただければ幸いです。

 BostonはNew Yorkの北東に位置し、アメリカの中でも最も歴史ある街の一つです。Harvard大学、MITそしてBoston大学といった多くの大学があり、学術都市としても有名です。Massachusetts General HospitalはHarvard医科大学の関連病院の一つで、中でもRagon InstituteはHIVやインフルエンザなどのウイルス感染症を専門に扱う研究所です。私はここで自己免疫疾患(IgG4関連疾患、シェーグレン症候群、硬皮症、リウマチ、線維性縦隔炎)の病態解明を目指し、九州大学病院の顎口腔外科と共同研究を進めています。

 留学当初は文字通り期待と不安を胸に渡航いたしましたが、正直申しますと私にとっての留学生活は楽しいことばかりではありませんでした。それどころか、初めの半年程度は常に気分は沈んでおりました。大きな一つの要因はやはり英語によるコミュニケーションが難しいことです。他の同僚は皆親切だったのですが、当然ながら各々仕事があり、英語が話せない私に手取り足取り全てを教えてくれるほど暇ではありません。積極的にコミュニケーションを取らなければ、相手にされません。私は自分から全く話しかけなかった(かけられなかった)ので、今思うと『彼は一人でいたいのだろう』と皆から思われていたことでしょう。私は比較的コミュニケーションに自信があったのですが、早々にその自信は砕かれました。粉々です。言語のみならず当然文化も異なります。日本ではほぼ間違いなくスムーズに終わることが、体感上6~7割程度の事柄は一旦滞ります。日本に比較すると、アメリカは良くも悪くも大雑把な所が多いように感じます。このように留学当初は様々な面において苦しんでいたことを鮮明に覚えています。

 しかし時が経てば、それにも慣れてきてしまうのが、人間の適応能力の高さなのでしょう。英語が話せないなりにも同僚とコミュニケーションを取る方法を学び、アメリカと日本の文化の違いも少しずつ理解できてきたのが約1年半経過後です。その頃になると(1年半でやっと!)ラボで進めている研究プロジェクトの概要が理解できるようになってきました。それに伴い、ラボの同僚ともディスカッションを含め会話が増え、自然と留学生活が楽になっていったのを覚えています。

 そのように少しずつ軌道に乗ってきたように見えた留学生活ですが、予想外の出来事が世界中を襲います。新型コロナウィルス (COVID-19) です。研究室は閉鎖し、外出も自粛、日に日に感染者数が増加し、まさに先の見えない暗闇にいるようでした。一方で、Bostonは世界屈指の医薬系研究のメッカの一つです。私の留学先であるRagon Instituteはウイルス感染症をメインに研究しておりましたので、COVID-19の研究も有志で先陣を切って取り組むことが決まり、私もその一員として参加させていただくことができました。その時期は毎週のように大規模なonline meetingが開かれ、論文公開前の新しいデータを多施設で共有、ディスカッションし治療法や病態解明を目指し協力していました。それぞれの報告は先の見えない暗闇を照らす光明であり、人類が協力することの力を肌で感じました。そのような中で私たちのグループは、COVID-19における特異な免疫反応の解明に従事し、論文(Kaneko N, et al : Cell, 183 : 143-157.e13, 2020)として発表しました。PI、co-author、多くの関係者、そして何より多くの患者さんとそのご家族の協力がなければこの研究はなり得ませんでした。改めてこの場を借りて深謝いたします。またCOVID-19による多くの犠牲者に哀悼の意を表します。この原稿を執筆現在(2021年1月)も次々と素晴らしい成果が報告されており、ワクチンの接種も開始されています。将来的にCOVID-19の制圧は約束されていると感じています。私自身も帰国までの間、自己免疫疾患およびCOVID-19の病態解明において少しでも良い成果を挙げられるよう尽力いたします。

 延々と私の留学生活を記しましたが、留学生活は研究がメインではありますがそれだけではなく、私生活でも予想外のことが度々起きます。それも含めての留学生活だと思いますが、ここまで読んでくださった皆様でもし留学を考えている方がいらっしゃいましたら是非留学をお勧めいたします。前述のように、私にとって留学はとても大変なものでしたし、気持ちが沈むことも少なくありませんでした。それでも途中で帰りたいと思ったことは一度もなかったと思います。きっと辛い中にも自身の成長を感じることができる機会が多かったからではないかと思っています。私がこの地で経験した一つ一つは大変なことも含めすべて貴重な体験です。この拙文が、留学を考えている皆様の背中を少しでも押すことができるのならそれに勝る光栄はありません。

 最後になりましたが、留学の後押しをして下さった中村誠司教授と前原隆先生、そしてたくさんの医局員の先生方皆様にこの場を借りて心より感謝申し上げます。また常に傍で私を支えてくれている家族に心より感謝申し上げます。

  • PIのProf. Shiv Pillai、当科の前原先生と筆者

    PIのProf. Shiv Pillai、
    当科の前原先生と筆者

  • 早朝のチャールズリバー。Bostonはとても美しい街です。

    早朝のチャールズリバー。
    Bostonはとても美しい街です。

  • Labの仲間達と。Bostonでもラーメンは人気です。

    Labの仲間達と。
    Bostonでもラーメンは人気です。

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